『ポポロ誕生前夜のシーンが今また・・・』人形劇団ポポロ代表 山根宏章

当時住んでいた杉並区の小さなアパートの一室でその思いは始まった。
ピンポンパンやらパンポロリンそしておはようこどもショウ・・・と局から局への飛び歩きで忙しかったけど、のどを壊して舞台から遠ざかっていた生活のなんとなく頼りない日々を送っていた僕に一条の光が差し込んだのだ。
 久しぶりの空き日の夜、グラスを片手に漫然と流れてゆくテレビの画面を眺めていた。胡座をかいた膝には長男のタツキが愛くるしい丸い顔をニカニカさせながらバスタオルの端をくわえてチュッチュクチュッチュクやっている、出版社に勤めている女房のミナコは組合の会合で今夜は帰りが遅くなる。二人は夕食のうどんを食べた後のくつろぎの時を過ごしていた。
タツキは少し黒ずんだタオルの端を僕の鼻先に差し出して「・・・まいよ・・・まいよ」と得意げに見せびらかしてまた自分の口に入れた。いつも寝るときには必ず抱いているくたくたのタオル、「そんなにおいしいのかぁ?」ちょっと引っぱってみると「ああん!」頑強にしがみついて放さない・・・面白くなって引っ張り合っていたその時「バババババ―ン」大きな機銃の音「ウグッ・・・」タツキは僕の胸に抱き付いた。テレビの画面が生々しい戦場の場面を流していて激しい音が止まない。いつも何気なく一緒に見ていた番組だったのだが、不意を突かれたせいかそのあとずーっとぐずって女房が「只今っ」って帰るまで寝なかった。「また、戦争もの見てたんでしょう」女房にこっぴどく叱られた。僕だって悲しかった、せっかく父と子の幸せな時間だったのに・・・。「戦争好きの子になったらどうするのよ」女房の怒りは収まらなく、苦いビールがグラスの底に残ったままだった。
ようやく寝入った息子の顔を眺めながら「この子がうーんと楽しめるような人形劇作ってやらなくちゃなあ」「そう、それがあんたの役目だよ」「テレビもいいけどやっぱり本物の客がいる方が僕には向いているなあ」「じゃあプークに戻る?」「いや、小さい子のための小さい芝居が作りたい」その時思い出していたんだ。『この劇団を出たら小さい芝居しかできないぞ』人形劇界の大先生の射るようなまなざしと言葉だった。同僚たちも異口同音にそう言った。
いいや負けない、小さくても子どもとしっかり話ができる芝居作ってやる。それから間もなくパリ祭の日にひっそりと一人劇団ポポロを立ち上げた。当た先なしの無鉄砲な出発ではあったけど、女房がけしかけたんだからまあいいだろう?って気持ちがあったかもしれない。それから子育て三昧の貧乏劇団人生が始まった。
勿論それが50年も続くなんて思ってもみなかったが、今また孫娘たちを相手の新たなる夢が僕を突き動かしている。老優いまだくたばらず、皆さんご注目を!!

山 根 宏 章
 

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梅雨に負ける

六月の中頃になり、暑さの中にじっとりとした空気が沁みる日々になりました。

日本の湿気はなんとなく、肌に張り付いてくるような、霧のように細かい水滴がそこらじゅうにまとわりついているような、そんな気がします。熱帯だと、もう少し粒が大きいようなそんな気がします。


さて、夏のワークショップと公演に向けて準備をしている最中ですが、ありがたいことにどれも大変好評で、葉書やお電話でのご予約をたくさんいただいています。ありがとうございます

(もし観劇のご予定のある方がいらっしゃいましたら、早めのご予約をお勧めします……!!)


対策が緩和され、人の素顔を見る機会が増えてきた今、演劇にも気軽に行ける空気が戻ってきたのかなぁと嬉しくなります。

それと同時に、マスクのない顔に慣れない自分もいて、習慣というのはどうしようもないなぁと苦笑いをしてしまいます。

今後はキツく縛った紐を緩めていくような、そんな日々になるといいなと、そう思っています。


短くて申し訳ないのですが、この辺りで。

明後日から久々の公演が控えています。がんばります!



12:54 | 劇団の日常 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

梅雨入り

ついにこの季節がやってきました。いつも思うのですが日本は四季じゃなくて五季なんじゃないかと、疑ってしまうほど梅雨の存在感は絶大です。人形や道具類にとっては、あまり良い季節とは言えませんが、畑にとっては恵みの雨、とても大切な事です。
このような季節の移り変わりで影響を受ける物としては、木で作られた舞台セットや道具類などがあります。いつもちゃんとはまっていた所に道具がうまくはまらなかったり、穴の大きさが変わってうまく入らなかったりなど、やはり木は生きてるんだなあ、季節の影響を敏感に受けるんだなあと感じつつ、何で仕込みの時間の無い時に限ってこんな事になるんだ〜などと慌てた事を思いだしました。作成者田村
13:46 | 劇団の日常 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑